向上心のある若い子たちが一生懸命に練習を重ねて強くなってくると、それまでアドバイスしてサポートしていた私をフィジカルでも技術でも超えていきます。せめて彼らの良い練習相手になるくらいの強さを持ち続けたいと思っています。
後輩や若い世代が自分を追い越し、たくましく育っていく姿を見るのは、指導的立場としてこの上ない喜びであると同時に、武道家としては言葉にできないほどの葛藤や寂しさ、そして心地よい刺激が入り混じる瞬間ですよね。
彼らの成長を心からサポートしつつ、「せめて良い練習相手でありたい」と願う事は武道家を志す者の気品だと思います。
フィジカルの全盛期を迎える若者たちに対して、年齢を重ねた私たちが「良い練習相手」であり続けるために、何が武器になるのか。それはやはり、これまで培ってきた「目に見えない技術の密度」ではないでしょうか。
1. 「速さ」ではなく「拍子(タイミング)」で合わせる
若者のスピードに真っ向からスピードで対抗しようとすると、どうしても無理が生じます。しかし、武道には「後の先(ごのせん)」や「出鼻(でばな)をくじく」という概念があります。
- 相手が動こうとした「起こり(初動)」を捉える。
- 相手の攻撃の軌道を、最小限の動きで「受け流す」。スピードそのもので勝るのではなく、相手の動きを読み、タイミングの質で圧倒することで、若者にとって「スピードが通じない、崩せない高い壁」という最高の練習相手になれます。
2. 「筋力」ではなく「身体の繋がり(丹田・骨格)」で受ける
若者の力強い突きや蹴りに対して、腕や足の筋力だけで受け止めようとすると、こちらが弾き飛ばされるか、怪我をしてしまいます。
- 相手のパワーを、自分の重心(丹田)を通して床へ逃がす。
- 骨格の正しいフレームで受ける。これにより、若者は「全力で打っているのに、ビクともしない」「まるで大岩を叩いているようだ」という感覚を味わいます。これは筋力任せの若者には絶対に真似できない、大人の「質の高い強さ」です。
3. 「無駄な動きのなさ」で若者の体力を削る
若者は勢いがある反面、どうしても動きに大きな無駄や力みが生じます。
こちらは極限まで無駄を省き、最小限のステップ、最小限の軌道で中心(正中線)をキープし続ける。若者からすれば「自分ばかりが動かされて疲れるのに、相手は全く崩れない」という、非常にやりにくく、学びの多い相手になれるはずです。
これからの「量」がもたらすもの
前回お話しした「また量も必要だ」という気づきは、まさにここにつながってくるのではないでしょうか。
若者を超えるためではなく、彼らの強さを受け止め、いなすための「正確な形と脱力」を身体に完全に自動化させる。そのための「量」です。
若者は「新緑」のように勢いよく伸び、
ベテランは「大樹」のように深く根を張る。
私たちがどっしりと質の高い壁として構えているからこそ、若い子たちは安心して全力でぶつかり、さらに強くなっていけます。それ自体が、すでに最高の練習相手であり、素晴らしい貢献です。

